ミネラルオイルとは

石油から様々な精製過程を経て得られた炭素数C₁₅-C₃₀の無色透明の液状オイルで、主成分は炭化水素です。

炭化水素とは、炭素と水素のみからなる化合物であり、化学的に極めて不活性な物質です。

別名は流動パラフィンとも呼ばれ、石油原油（鉱物油）から得られる物質です。

地下資源から採られるので、鉱物油と呼ばれていますが、そもそも石油は、石炭や琥珀と同じように、太古の生物が長い時間をかけて地下で変化したもので、自然からつくられた油です。

鉱物油というのは慣用的な表現で、明確な定義がある用語ではありません。地中から掘り出された天然物そのものだけでなく、そこから化学的変化を経由して作られる油分も含めるとする考え方もあり、この場合は非常に多くの油分が鉱物油に該当します。逆に、地中から掘り出される天然物を石油だけに限定して、石油から化学的変化をさせず精製だけで取り出された液体または固形油分だけを鉱物油とする考え方もあります(7)。

ミネラルオイルは、酸化変敗が少なく、乳化しやすく、無臭で安定性が高く、皮膚への浸透性がほとんどないため、肌表面の汚れを取り除くことに優れています。

低刺激性で安定性も高く、乳化特性も良いためクリームや乳液のオイルとして広く使われています。角層に馴染んで水分が逃げないように保護し、柔軟な肌に整える効果に優れています。

また多くのメイク料との馴染みが良いので、クレンジングへの配合も多い原料です(5)。

ミネラルオイルは酸化しにくいためベビー用品（ベビーオイル等）にも使用されており、市販している化粧品などにも「ミネラルオイル」を使用されているものが多くあります。

以前は鉱物油に含まれる不純物が原因で、黒皮症という問題がありましたが、現在は精製度がとても高い鉱物油を使用しているため問題ありません。

また、鉱物油は、安定性が高く、皮膚への刺激も低いため、皮膚科の治療薬の補助として使用されるワセリンにも含まれています。

ミネラルオイルは、粘度によって軽質流動パラフィンと重質流動パラフィンに大別され、分子量はそれぞれ260-280または475-500の範囲です(2)。

常温では非揮発性および非水溶性であり、通常の使用条件では酸化されず、経時変色もない、化学的・生物学的に安定した物質です(文献2)。

一般的にミネラルオイルは工業分野では鉱油と呼ばれますが、工業分野で使用される鉱油はほとんど精製されていません。

一方で化粧品分野や医薬品分野で使用されるミネラルオイルは高純度に精製されており、皮膚に塗布しても問題ない「化粧品グレード」以上のものが使用されます。

エモリエント作用・油性基剤

エモリエント作用に関しては、不活性であり、耐水性および潤滑性を有し、乳化特性も良好であるため、乳液やクリーム系のスキンケア化粧品、ボディオイル、メイクアップ化粧品などに油性基剤として使用されます(2)。

また不活性で皮膚浸透性がほとんどないため、クレンジング剤やアイメイクアップリムーバーなどの基剤としても用いられます(2)。

2008年にJohnson& Johnsonがミネラルオイルのエモリエント性（閉塞性）を検証したところ、ホホバ種子油およびアーモンド油などの植物油と同等のエモリエント性であることが明らかにされてます(3)。

また、2012年にドイツのシャリテベルリン大学皮膚科で実施された試験でも同様の結果が報告されています(文献4)。

感触改良

感触改良に関しては、潤滑性・展延性を有しているため、クリームの油性基剤として使用されます(2)。

展延性とは、柔軟に広がり、均等に伸びる性質のことで、薄く広がり伸びが良いことです。

これらの目的で、メイクアップ化粧品、スキンケア化粧品、ボディ&ハンドケア製品、日焼け止め製品、ネイル製品などに使用されています(1)(2)。

安全について

ミネラルオイルの安全性（刺激性・アレルギー）において、皮膚刺激性および皮膚感作性（アレルギー性）については、化学的および生物学的に不活性であり、50年以上の使用実績がある中で重大な皮膚刺激および皮膚感作の報告がありません。

そして、化粧品配合量および通常使用下において、一般的に皮膚刺激および皮膚感作性（アレルギー性）はほとんどないと考えられますが、詳細な安全性試験データがみあたらず、データ不足のため詳細は不明です。

1970年代には精製度の低い鉱物油中の不純物が原因で、油やけが起こり、色素沈着などの皮膚トラブルが発生したことがありましたが、現在では精製技術が進み、安全性の高いものが使用されています(5)。

油やけとは、鉱物油中の不純物が原因で皮膚に刺激を与えることによる刺激症状のことです。

眼刺激性については、試験結果や安全性データがみあたらないため、現時点ではデータ不足により詳細は不明です。

皮膚浸透性については、試験データをみるかぎり、ミネラルオイルは他の植物オイルと同様に角質層にとどまっていると報告されているため、角質層以下への浸透はほとんどないと考えられます。

参考文献

1. 日光ケミカルズ株式会社（2016）「炭化水素」パーソナルケアハンドブックⅠ,28.
2. 広田 博（1997）「炭化水素類」化粧品用油脂の科学,54-60.
3. Georgios N. Stamatas, et al（2008）「Lipid uptake and skin occlusion following topical application of oils on adult and infant skin Journal of Dermatological Science(50)(2),135-142.
4. A. Patzelt, et al（2012）「Lipid uptake and skin occlusion following topical application of oils on adult and infant skin」Skin Research & Technology(18)(3),364-369.
5. 花王株式会社（-）「鉱物油はシミや油やけの原因になるの？」, <https://www.kao.com/jp/qa_cate/lotion_04_02.html> 2019年11月25日アクセス.
6. 宇山光男、 岡部美代治、 久光一誠 (2015)　「化粧品成分ガイド 第6版」
7. 岡部美代治、 久光一誠 (2011) 「現場で役立つ化粧品・美容のQ&A」

ミネラルオイルの配合目的

• エモリエント作用・油性基剤
• 感触改良

ミネラルオイルの安全性情報

ミネラルオイル（流動パラフィン）は外原規2021規格の基準を満たした成分が収載される医薬部外品原料規格2021に収載されています(1)。

また、Johnson & Johnsonの試験データ(2)によると、

「パラフィンオイルと植物油は、同様の濃度プロファイルでSCの最上層に浸透する。この結果は、成人と乳児の両方の皮膚で確認された。テストされた3つのオイルは、ワセリンの中程度の腫れ（40-60％）と比較して、中程度のSC腫れ（10-20％）を示した。」

「これらのデータは、皮膚への浸透と皮膚の閉塞に関して、パラフィン油と植物油の間に統計的な違いがないことを示している。ワセリンの結果は、in vivo共焦点ラマン顕微分光法が、局所塗布後の脂質取り込みと皮膚閉塞イベントの両方を測定するのに十分な感度と特異性を備えていることを示している。」

とあり、角質層以下への浸透はほとんどないと考えられます。

参考文献

(1)医薬部外品原料規格2021

(2)Georgios N. Stamatas, et al（2008）「Lipid uptake and skin occlusion following topical application of oils on adult and infant skin」Journal of Dermatological Science(50)(2),135-142.

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